小説・神シリーズ

kazu.satou@e-kashiwa.ed.jp

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自己紹介

はじめまして。明日一トです。
まだ書き始めて一年も経っていませんが、いろいろご指導いただけるとありがたいです。
厳しい評価などもどんどんお願いします。
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あめと神 序章:終始

 俺は今、全校生徒を前にして、ステージに立っている。

 何かしでかしたのかと思った諸君。甘い甘い。別に特別何かしでかした訳ではないのだ。
 この北の大地、北海道の全てを凍らせるような寒さも和らぎ、まだ冷たい、だけどどこか安心させる風が吹く春、体育館でやるものといったらあれしかない。

 そう。

 入学式だ。

 何故入学式でステージに立っているかって? 簡単だ。
 俺が新入生代表の挨拶をするからである。
 何故……ってもういちいち言うの面倒だな。自慢するわけではないがトップだ。

 自分で言うのもなんだが、俺は昔から勉強ができた。お前等の周りにもいるだろう。全く勉強してないのにテスト等ではいつも高得点をとる奴。まさしく、俺はその類だ。
 特に何かしている訳ではない。周りと同じように勉強して、遊び、笑い合うのだが、テストはできる。そんな感じ。
 だが別に俺はその事を鼻にかけて自慢したり、できない人達を馬鹿にしたりなどしない。もっといえば思ったこともない。

 できない人達も頑張っているのだろうし(そうある事を願う)、この世に神から生を授かったときに、ちょっとオマケを付けて貰えたかどうかの違いでしかないのだろうからね。いや別に俺はキリスト教信者ではない。そこんとこ、勘違いしないように。
 だが、できない人から見たらそれが腹立たしいのであり、言った途端に毎日闇討ちを恐れるような生活になるのは分かっているので、決して口にはしないが。


 しかし、この高校、進学校というだけあって、設備がすごいな。

 冷暖房完備は当然。生徒には一人一台のパソコンがあり、エレベーターまで付いている。その他、学習、部活においても最高の設備を整えており、公立でここまでできるのかね? やばい金とか使ってないか心配になったり。まったく。

 などと、くだらぬ事を考えながら用意した文を読みつつ、ふと生徒を見ると、話しをする者こそいないが、体育館の中を見渡したり、明らかにだるそうな顔をしている奴や、あくびをしている奴、中には爆睡しているやつもいる。

 ……おまえら、入学式ぐらい少し緊張するとかないのかよ。

 と、思いつつも(ステージの上で発表しながらこんな事にツッコんでる俺が言う事じゃないか)、流石に文が長かったかと思い、途中ではあるが、適当にまとめて終わらせる事にした。
「……と思い、この西高の生徒として恥のないよう、三年間、努力することを誓います。新入生代表、神 春次(じん はるつぐ)」

 静穏の天使か、それとも困憊の悪魔か、異様な静けさを纏った人が混み合うステージに向かって、俺はマニュアル通り一歩下がって礼をした。と、途端に盛大な拍手が俺に向かって放たれた。
 お前ら、十中八九、終わった事に対する拍手だろ。
 まあ、その中で一際盛大な拍手を惜しみなくしてる奴らもいるがな。見なくたって誰だかわかる。たかが挨拶だぞ? 親バカめ。

 ゆっくりと壇上から下りた俺は、同じく合格したやつらと鼻を並べて席に着き、校歌やら校長の話やら会長のお言葉やらを、右の耳から左の耳に、左の耳から右の耳へと、互いをたまに正面衝突させたりしながら聞いていた。
 ……てかなんで新入生代表の挨拶が一番最初なんだよ。逆だろうが普通。
 おっと、連絡事項についてか。これは聞いておかないとな。
 しかし、この高校、「自由」がモットーのくせになんで制服なんだ? 髪を染めたり、ピアスやバイト、携帯はもちろん、バイクや車の免許までいいのに。……いや、車の免許は18になるまでお預けか。まあ、ここのセーラー服はなかなかかわいいので文句はないがな。

 いや、別に俺はセーラー服フェチじゃないぞ。あくまで感想を述べたまでだ。

「……なお、本校の制服を加工等することについては、本校の生徒として恥じないものであれば一向に構わない」

 …………。
 自由過ぎないか……?
 てか、そこを自由にするなら、私服にすりゃあいいじゃないか。わからん。
 まあ、そんなこんなで、入学式も終わり、これから一年間を過ごすH組の教室へと足を踏み入れた。余談ではあるが、俺はアルファベットのクラスに憧れていた。まさかこの高校に入学しようと思った最初のきっかけがそれだというのは俺だけの秘密である。
 そして我が念願のアルファベット教室の第一印象なのだが、ま、ごく普通の教室であった。特徴と言えば、そうだなあ……、みんなの頭にソウゾウされてる教室を、配色――特に天井や壁を白基調にして、大掃除が終わったばかりでワックスも済んだ時の感じをイメージをしてくれ。あ、そんな感じ。
 まあ、いくら進学校とはいえ、地元の高校だからな。他の中学にも知り合いは結構いたし、同級生も、結構いる訳だ。

「よう! ナッツー!」
 左サイドから陽気な声をかけられた。
「おお、また同じクラスか、望(のぞむ)」

 金髪の髪の毛を逆立てた、幼稚園から毎回同じクラスの、いわゆる腐れ縁、またの名を親友である日野 望(にちや のぞむ)は、野性感溢れるその笑顔を剥き出しにしていた。

「おうよ! これで14年連続だな! 今年もよろしく頼むぜ! カーミサマッ!」
 そういって望は肩を組んできた。別に嫌じゃないんだが、身長の差からであろう、錬金術の最終形態のように鍛え上げられた身体を一身に背負うのは、正直かなり辛い。いや、俺の身長が低いとか身体が貧相とかじゃない。これでも身長は170あるし、中学時代の部活だってそれなりにまじめに取り組んできた。ただ、望の方がかなりでかいんだ。
「入学式直後から超ハイテンションだな」
 俺ができるだけ皮肉を込めないような笑顔でそういうと、
「俺のテンションは昼夜問わずMAXに開放中だぜ! ハッハッハ!」
 教室の前を通り掛かった生徒がびくつく程の高笑いをした。

 ……相変わらずだな。まあ、今年も楽しくやるか、望さんよ。

「まったく、入学早々元気がいいわね! ヒノボー!」
 俺の前に座った少女は、栗色の髪をさらりと払いながら、くるりと振り向いた。
「あったりめぇだ! 俺のテンションは……」
 何度もいうな。そのセリフは2万と521回聞いた。
 少女は強気なラブラドライトのような瞳を輝かせ、
「まっ、今年もなかなか面白くなりそうじゃない! また一年間よろしくねっ! ハル! ヒノボー!」
「ああ、よろしくな。風夏(ふうか)」
 と、望に負けず劣らずのハイテンションな望と同じく、14年間連続で同じクラスの腐れ縁、またの名を親友の緑 風夏(みどり ふうか)は、再度顔にかかったセミロングの髪を払って席に着いた(俺も同じ事いってるな)。

 言い忘れていたが、ヒノボーとは望のあだ名である(日野 望→ひのぼう→ヒノボー)。

 んで、このナッツー、カミサマ、ハル、全て俺のあだ名なんだ。
 ハルは単純に「春次」から。
 ナッツーは春次なので春の次、つまり「夏」。
 そしてカミサマは苗字の「神」に夏を英語にして「summer」だ。

 全て望が考えたもので、幼稚園の頃はハル、小学校ではナッツー、そして中学ではカミサマだった。どうやら本人が言うにはネタ切れらしく、それなら名前で呼んでくれよと思うのだが、風の便りに聞く限り、高校ではサラダボール状にくるようである。おかげで俺のあだ名は人によって全然違う。逆にいえば、あだ名で会った時期が分かる訳だが……。複雑な心境である。

 にしても、あだ名説明で、かなりかかったな。これも望のせいだ。後でいろいろ謝っておけ。

 望は依然、俺と肩を組んだまま、
「それにしても風夏はずいぶんと女っぽくなったよなぁ! 幼稚園の頃、初めて会った時、あまりのおてんばさに俺達、男だと思ったもんな! ナッツー!」
「確かに」
「うるさいわねぇ! あたしは最初っから元気な女の子です~! 小さい頃、木に登ったまま降りられなくなって、ワンワン泣いてたのはどこの誰なんですか~?」
 望の俺の肩に回した手が一瞬だけきつくしまる。
「んで、その後ようやく降りて来たと思ったら、泣き叫んであたしの胸に抱き着いてきたのよねぇ」
 望最大の黒歴史に壇ノ浦へ攻め込むが如く追い討ちをかける風夏。

 望。腕を離せ。窒息死させる気か。

「あっ……あれは……その……」
 望……。頼むから早く……
「みんなに言ってもいいのかなぁ、あ・れ・を」
 余裕の笑みを浮かべた風夏がカウンターから見事なワンツーパンチが決めた。
 望の殺人未遂で終わった腕がようやく首から離れ、望は180はあろう長身を携帯のように二つ折りにした。
 無言の謝罪と哀願、そして降伏である。
 風夏はひまわりのような笑顔で、
「あたしの勝ちね! メロンパン2つで!」 
「……了解した」
 ドンマイだ……望。

 まあ、たしかに望の言う通り、最近の風夏はぐっと女っぽくなったのである。
 元々のクリクリッとした目、ツンと上向きで利かん気そうな鼻、つやのいい唇、肩まで伸ばした栗色のストレートヘアはもちろん、中学に入ってからは身体にも変化が出始め、今や写真集の一つや二つ出せそうな、スタイルのいい美少女となっていたのである。
 しかしまあ世の中ってのは単純なもので、中学に入ってからも俺と風夏が一緒に遊んだりしていたのを見て、能天気な馬鹿どもが一時期、両者の名前を一字ずつとって「春夏疑惑」にまで発展させたことがあった。
 まっ、当然俺達は否定したがな。
 わかるだろ? 幼なじみの男女ってのは、絶対に恋仲に発展してはいけないという、気がついたら出来上がる暗黙のルールがあるってことが。お互い、そんな目で相手を見たことも無いしな。 幼なじみってのはそんなもんなのである。

「しかし、俺達全員が同じクラスで席が近いってすごいな」
 頬杖をつきながらなんとなしにそう言ってみた。
 望の席は俺の左。風夏は俺の前だ。
 んで俺の席は、左から3番目、前から3番目という、ジャストど真ん中であった。少子化の影響からか、今年は1クラス25人だからな。いくら少子化でも進学校には人が集まってもいいような気がするんだが……。違うな。落ちたやつもいるんだから、これは学校側が意図してやっていることになる。
 ……それにこれは何の順だ?本当によくわからない学校だ。サイコロでも振って決めたのか、くじ引きでもして決めたのか、はたまたこれは特殊精霊を呼び出す並び方なのか、SF的な暗号とか……って、何を言ってるんだろうね、俺は。

 と、素晴らしきマイ・ワールドに飛んでいると、闇歴史の修復を終えた望がまた肩を組んでくる。
 ほんと、肩組むの好きだな。
「だよな! 俺達3人なんかあんのかもな!」
 風夏が、それに合わせて笑う。
「アハハッ! そうかもね!」
 誘う踊りに誘われたが如く、俺も笑う。
「ハハッ。ほんとだな」

 ――という、まあどこにでもあるようなないような何気ない会話だったんだ。
 まさか望が言った事が本当になるとはな。
 いや、正確には3人で留まる事はなかったのだが……。

 そんな話を三人でしていると、ふと、心地よい甘い匂いが辺りに漂ってきた。匂いからして、これはイチゴか?
 俺は甘い匂いの発生源である、90°右を見た。

 ――ああ、これが終わりであり、始まりだったんだろうな。

 そこには、飴玉をくわえた小柄なショートカットの少女が無表情に座っていた。

次回.一章:現実


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あめと神 一章:現実

 その少女は無音で飴玉を舐めていた。そういえば、ここの学校は授業中でもモノを食べていいらしい。本当に自由すぎる。

 真っ黒な飾り気のないショートカットに、飴玉みたいにくりっとした真っ黒な瞳。何にも染まりそうにない色白な肌、整った顔立ち。座った状態で俺の肩まであるかないかの背丈。起伏のない体形に、抱きしめたら折れてしまいそうな、細い身体。
 ちょっと見ると中学生のような、それでいて何となく掴みどころのない少女が、真っ直ぐ前を見て座っていた。

 俺たちは、毎年学園祭でこの学校から放たれる花火を家から見たときの光と音との時間差程にじっと、その少女を見つめていたが、風夏が、
「ねぇ? あなた、どこ中出身? 名前は?」
 と、笑顔で言った事によりフリーズを免れた。何故全員で一瞬固まってしまったのかは、誰にもわからない。
 少女は顔をこちら側に少しだけ傾けて、
「……流星(りゅうせい)中。…………時雨 雫(しぐれ しずく)」
 抑揚のない声で言った。

 しかし、女子という生物はすごい。どうして初めて会った人に対して、こんなにも普通に話し掛けられるのかね。XXがXYになっただけでこんなにも違うものだろうか。我々男子も見習わなければ。

「流星中?」
 風夏は唇に指を当て、
「あそこって去年立て篭もり事件があったとこよね?」
 雫は静かに頷く。
 学ランがむれて、そろそろかゆくなってきた肩をがっちりとふさいだ望は、俺の顔を覗き込むように、
「たしか、そのせいで学力が急激に落ちたんだったよな、ナッツー」

 ああ。あの最悪な事件を忘れるわけがないさ。何しろ、追い詰められた犯人は、生徒一人を殺し、一人に重傷を負わせ、終いにはトチ狂って自殺しちまったんだからな。受験シーズンにそんな事件に遭っちまったんだ。流星中のやつらには仕方がないさと何回慰めたかわからない。

「で、今年の西高の合格者数が確か……」
「二人」

 風夏の質問に雫が今までにない早さで答える。
 
「すっごい! よく受かったわね!」

 俺的には、おまえが受かった事のほうが、すごいと思うんだがね、風夏。
 何しろ夏の状態で学力点が2ランクも足りないとこから驚異の追い上げを見せ、結果、水面下ぎりぎりでここにいることができたんだからな。その驚異の追い上げをする為に、俺の貴重な睡眠時間が削がれたのは、また別の話だ。

 風夏は「へぇ~」と、まるでどんぐりでキャッチボールを始めたリスを見るかのような瞳で、
「やっぱり、学校ではいつもトップとかなの?」
 雫はコクリ頷く。

 思い出した。

「おまえ、4月3日、学校にきたよな?」
 突拍子のない質問にもかかわらず、雫は平然と頷く。
「なんだ、ナッツー。この娘の事、知ってるのか?」
 むしろ岡目である望の方が虚を衝かれたらしい。
「俺と同じだ」
「えっ?」
 望と風夏が綺麗なユニゾンで聞き返した。
「俺も4月3日に学校に行ったのさ。入学式の挨拶についての、打ち合わせって事でな」
 二人はまだ状況が呑み込めていないみたいで、お互いの顔に答えが書いてないかとを見合わせている。雫はというと、無表情に二つ目の飴玉を小さな口に運んでいた。

「そして、部屋に入ったら、この娘も部屋にいた。つまり……」
「そっか! ハルと同じ点で合格したってことね!」
 その通り。ポンッ、と俺の前で手を叩く様子を見ると、望もわかったようである。
 望はあれっ、とつぶやき、
「そういやナッツー、おまえ何点だったっけ?」
「ご想像にお任せしよう」
 初日から柳眉をいじくるのは避けたいからな。

「で、どうやってどっちが言うか決めたの? じゃんけん? くじ引き? それともその場でもう一度テスト?」
 風夏が興味津々に聞いてくる。相変わらずの知りたがり屋だ。
「私が辞退した」
 雫が淡白に答える。
 風夏が「どうして?」の「ど」の口を開ける事も許さず、雫は続けた。
「……私は人前で話す事があまり得意ではないし、それに、彼の方が社交的で新入生代表として、相応しいと思った」
 雫はそう、ノーアクセントに答えた。
 風夏はふーんと頷くと、
「なるほどねぇ。でも、せっかくならやってみればよかったのに! こういうのは経験なんだし! あっ、そうだ! 雫! 雫って呼んでいいよね! 携帯持ってる? メアド教えて!」
 いつものことながら行動が早い。思い立ったが吉日だ。それで、失敗がほとんどないのだから、うらやましい限りだね。
 雫は無表情に胸ポケットからひょいと携帯を出した。OKととっていいのだろう。と、同時に、みたび、飴玉をだして、口にくわえる。……いったい何個たべるんだ?

 というより、携帯は持ってるんだな。変な先入観を持った事を反省しておこう。

「じゃあ、あたしが送るから、雫は受信ね!」
 そういって、風夏は携帯を出し、赤外線通信を始めた。速い。
 風夏と赤外線通信を終えた雫は、じっと俺の方を見つめていた。

 なんだ?
 
「あなたのも……」
「?」
「アドレス……」

 風夏のメアドを入手終えた雫はこちらに携帯を向けている。

「ああ、アドレスな。オッケー。後、俺の事はハルでいいよ」
 あだ名の中ではハルが1番気に入ってるからな。

「わかった」

 赤外線通信中。

「これ」
「ん、何?」

「あげる」
 無表情に俺の手に渡された小さな飴玉袋。

 ……イチゴ味。

 俺と望のメアド交換も終えたところで(その間に雫は4つ目の飴玉を口に運んでいた)、担任が爽やかに我がH組へ入ってきた。

 「これから一年間、このクラスの担任、そしてみんなが苦手であろう数学の担任、さらにみんな大好きサッカー部顧問である西野 東(にしの ひがし)だ」

 そう名乗った担任は(ギャグなのか?)、若い爽やかな男の先生だった。熱血漢でなくてホントにありがたい。中学の時はあまりの熱血漢ぶりに、毎週だれか一人は休むという、悪夢の日々だったからな。俺は休むことはなかったがね。
 しかし、クラスを見てみると、俺達3人以外に、元中である龍宝(りゅうほう)中出身はいないな。やはり、望の言うように、なんかあるのかもね。

 例えば、この学校は実はマフィアとつながりを持っていて、校長がつながりを断ち切るために俺たちを集めたとか、または、昔三人で集めていた王冠コレクションの中に時価で何十億もするものが混じっていて、それを担任西野が欲しいがあまりゲームを仕掛けてくるとか。いやいや、もしかしたら俺たちにはとてつもない潜在能力があり、その三人の能力を集結させるとどうなるかを調べるために、この配置になったとかな。

 なーんてな。

 現実そんな事はないだろう。あったとしても、それは中学の時の交友関係を調べたぐらいだ。

 そんなくだらない事を考えている間に、西野の話は終わっていた。今日はこれで下校である。

「ナッツー!帰ろうぜ!」
 そういってまた肩を組む望。
「おう。風夏も一緒に帰るだろ?」

 隣の無機質な少女と話し込んでいる――と言っても、片方がひたすら話し続けているだけなのだが――幼なじみに声をかけた。

「ねえ!雫も一緒に帰っていいよねっ? 方向、おんなじみたいだし」
 どうやらもうそこまで話がいったようである。行動が早い、速い。
「俺達はいいよな、ナッツー?」
 てか拒否る理由なんてないに決まってるだろう。
「オッケー!じゃあ、帰りましょう!」

 いつの間にか、風夏が先導となっていた。




 帰りの道でのこと。
 今年は温暖化を無視して雪解けが遅くまだ自転車が使えない。まあ我が家は学校は目と鼻の先なので、これから通学に使うのかは未定だがな。
 水混じりの薄汚れた結晶を蹴とばしつつ、これからも世話になるであろう商店街のなかにいる四人の話題は中学時代の部活について。

「ねえ、雫は中学の時、何部に入ってたの?」
 元陸上部で長距離エースの風夏の質問より、高校入学初頭にありきたりな、部活詮索が始まった。……まあ、雫が何部出身なのかは俺でなくとも気になるところである。
 雫は本日俺が見た限り21個目の飴玉をくわえながら――というか、毎日こんなに食べるのか?

「……野球」

 ……野球!?

「野球ね! いいなぁ! あたしもやってみたいなぁ!」
「まてまて、なんで普通に会話できるんだ!? 野球だぞ!? 女子だぞ!?」
「何そんなに驚いてるのよ? うちの学校にもいたじゃない!」
 ……たしかにいたが、学年で一番のデカブツだったじゃないか。
「……ポジションはどこだ?」
 望が目を黒ゴマ一粒のようにして聞いた。

「……ショート」

 雫のいうショートというのは野球ではなかなか重要なポジションであり、小回りが利かないといけないのでまさに雫っぽいといえば雫っぽい気がする。しかしなあ……。ライナーを捕った雫がそのままボールと共にスタンドへ飛ばされる姿を思い浮かべたところで妄想を止める。
 風夏は三歳児のような笑みで、
「ハルとヒノボーは高校で野球、続けるの?」
 望は手を頭の横でひらひらさせる。
「いや、俺らは中学まででいいよな? ナッツー!」
「そうだなぁ、最初から野球は中学までって決めてたし、高校ではもっと面白い事をやってみたいかな?」
 また死に際特訓をやらされるのも御免だしね。元担任兼監督め。
 風夏は「そっかぁ」と、白い息をはあ~っと風に流して、
「もったいないなあ。二人なら甲子園も夢じゃないかも知れないのに」
 望は、また俺の肩と自分の肩を交えて核融合MAXな顔で高らかに笑う。
「ハハハ!! 甲子園か! それもいいかもな! でもまあ適材適所。我田引水。下手な鉄砲数打ちゃ当たるだ。気にするなって。」
 望。それこそ下手な鉄砲数打ちゃ当たるだぞ? 当たってないけど。
 望はフンフン鼻を鳴らして肩を俺から外し、大きく右足を踏み出してシャドウピッチングを始めた。一年前には、その先に俺がいたんだよな。
「それこそ、時雨は続けるのか?」
 望はくるりと一塁にけん制しながら、誤用を少しも気にせず雫に聞いた。多分、いや間違いなく気付いていないんだろう。
 雫はくしゃりと雪の固まりを足で崩して少し沈黙、そして答えた。
「……坊主は嫌だから……」

 ……なるほど。



 次の日。
 当たり前だが特別変わった事もなく、帰りのHRとなった。
 西野が前からプリントを配布している。まだ、慣れていないのだろうか、昨日から、プリントの過不足を伝える声をよく聞く。俺は前の風夏から渡されたプリントに目を通しながら、それを後ろに回し、五秒ほどして、それは後ろに回した俺の手から離れた。
 A4版の紙に、つらつらと書きつづられた文字の集合体は、昨日の会話そのものであった。

 「部活動紹介……ね」

 さて、何に入ったものか?
 昼休みには野球部に誘われたが、高校ではやるつもりはない。ほかの運動部に入るならあまり変わらないような気もする。陸上部は、入ったら最後、ソドムとゴモラの如く身を滅ぼされてしまうらしい。あれか? 顧問の黒崎は閻魔か何かなのか?

 ……となると、まあやはり文科系かな。
 種類は……

 合唱・美術・吹奏楽・演劇・軽音楽・慢研・映研……等々。

 どれもパッとしないな。まあ、望と適当に見て決めるかな。
 そう思い、望を探そうと教室から出ようとしたその時、後ろから袖を引っ張られた。
 もみじのように小さく、初雪のように白い手が、袖を掴んだまま静止している。

 雫だった。


 真っ直ぐで大きな瞳をこちらに向け、やはり抑揚のない声でこう言った。

「一緒に来て欲しい」




 俺は3階の1番隅の教室、厳格な雰囲気が漂う扉の前に雫といる。
 望? ほっとけ。やつなら勝手に騒ぎ通せる。……冗談だ。後で、缶ジュースでもおごってやるよ 。
「ここ」
 雫はそのきまじめで、部外者が入るのを一切合切拒んでいるような扉を開けた。

 んでまあ、ここがどこかというと、由緒正しき生徒会室である。

 この学校は、会長以外の生徒会役員は自主性なので、そこそこ人数も多い。雫も入りたかったのだろう。だが、一人では恥ずかしいので、俺にも一緒に入って欲しいってとこだろうさ。風夏は、今日は親が帰って来ないからってすぐに帰ってしまったしね。昨日の会話で俺が暇してるのは分かってるだろうからな。
 まあ、暇だという事実はここのところ変わりようもない今限定の不変の真理であり、生徒会も高校生活をエンジョイするのには悪くないかなぁなんて、思っていた。



 …………思っていた。



 俺はなぜか5秒程、平然としていた。

 なぜかこの時、こういうもんだと思い込んでしまったらしい。

 人間、あまりにありえない状況に陥ると、冷静になったようなそんな気分になるのかもしれないな。こんな体験、絶対ないからそんな気分になることなどないが。
 俺の今、置かれている状況。あててみな。
 「三分間待ってやる。」などと、どこぞの大佐のセリフが頭をよぎる。
 これなら、せめてそこには、かの有名な名探偵が足掻きながら「バーン!」とか、未来からきたロボットがいるとか、最悪、灰色な空間の中、巨人に出会うとか、砂時計が二つある重力10倍の部屋とかに入るとか、そんな展開がよかったぜ。

 まあ、なんだかんだ言って生徒会室には、何もなかった。

 いや、文字通り、「なにも」なかったんだ。

 俺は闇へと落ちていきながら、今までの出来事を走る馬の灯の如く思い出していた。
 どうやら死にかけたときに生まれてからの事を思い出すってのは、本当のようだね。できれば、後50年は知りたくなかったがな。

 あぁ、ヤバイ。マジ死ぬのかよ……。
 さらば、両親、友よ。先立つ不幸を、お許し下さい……。

 そんな最期の妄想を繰り広げていた俺の意識は、次第に闇へと呑まれていった……

次回.二章:世界

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あめと神 二章:世界

俺は闇の中で意識を取り戻していた。

「俺は……死んだのか?」

 辺りを眺めてみたが、まるで黒画用紙を貼り付けたように何も見えない。
 死後の世界とはこんなにつまらないところなんだろうかね。自殺する人達よ。どんなに辛くても生きてた方が楽しいぞ。命は大切にな。……って、所詮届かぬ願いだな。
 自分の身体の認識はあるのか? と思ったところで、俺は自分が座っている事に気がついた。
「感覚は、あるみたいだな。」
 自分の発した声が聞こえてる事から、空気、あるいはそれに準ずるものもあるようである。冷静に分析出来る俺、えらいぞ。
 座る事が出来るなら、立つ事も出来るはずだな。
 そう思い立ち上がろうとしたその時、今度は一転して、俺は光に包まれた。
「うわっ……!?」
 瞳孔全開の俺の目に、容赦なく光が突き刺さる。あまりの明るさに目を閉じても目の痛みが治まらない。むしろひどくなってきてないか? 別の意味で視界が真っ暗になりそうだ。

 しかし、徐々にその光も弱まり、目を凝らして前を見ると、やはりと言うべきか(この展開はお決まりだからな)、無表情な雫がいた。
「おまえも死んじまったのか?」
 雫は少し首を傾げる。
「なぜ?」
 だんだんはっきりしてきた目で、雫の小さな姿を捉える。
「なぜって……、あれだけの高さから落ちたら普通死ぬだろ」
 周りも少しずつ見えてきた。落ちた感覚そのままに地下室みたいな薄暗い部屋だ。灰色一色に染められた、雫のように起伏のない壁。目が光にやられたのも、特別目くらましのような光が放たれたわけではなく、ごく普通の白色電灯がそこにあるだけだった。地底人に告ぐ。お前たちはそこから地上を攻めようなどという考えを持たぬように。空気は一応流動しているようではあるのだが、どうによも色も飾り気も全くないカクカクな部屋に息苦しさが拭えない。ふと廊下の先を見てみれば、同じような景色が、まるで無限ループのように繰り返されていた。幼少時代、世界的に超有名なゲームを一緒にしていた望への台詞が蘇る。「だからそこの土管だって」

 雫は後ろを向きつつ、手招きした。
「こっちに来て」
 そうやって、この部屋に一つしかない扉のドアノブに静かに手をかけた。

 今度はちゃんと「あるか」どうかを確かめてから入った。特に第一歩目はな。
 まあ、ちゃんとあったようだ。
 まあ、いろいろと……。

 雫は飴玉をくわえながら部屋の奥へと黙って進み、いかにもベテランの刑事っぽいを連れて戻ってきた。
「やあ、君が春次君だね」
 40才後半ぐらいであろうか、親に言われて子供が嫌々草むしりをした後の庭みたいに残る髭、ふくよかとまではいかないぐらいの体型、そしてなにより顔に冷点なんてないんじゃないかと思うぐらいに笑顔が温かいその男性は、自然に握手を求めてきた。思わず手を合わせてしまう。
「どうだい、ここの設備は?なかなかいいと思うんだがね、どうだろう?」
「はあ……たしかに凄いです。」
 先ほどの何もない空間とのギャップもあり、驚きやら呆れやらの思いでこの空間を見渡す。
 そこには学校そのものと同じくらい大きな液晶パネル。無数にあるパソコンには、総額を計算するだけで劣等感という名の悪魔に襲われてしまいそうになり、それらをつなぐ、大蛇の様に地をうねうねと這うコード、機械オンチな風夏が触ったら30分でその倍ぐらいをスクラップにしてしまいそうな機械があり、そこには様々な人種の人達が、資料を片手になにやら論議をしていたり、一人新聞を眺めてコーヒーをすするものもいれば、パソコンに向かってなにやら打ち込んでいたりしている人もいる。まさに十人十色で千差万別ってところだ。
 ここは捜査本部かなにかかね? てか、さっきからいろいろ極端過ぎるだろ。

「雫から話は聞いたと思うが、」
 はい?
「君に来てもらったのは話の通りだ」
 ……ちょっとちょっと、
「君には、きっとたくさんのメンバーがいるように見えるだろうが、」
 待て待て。
「これでも、敵対勢力には……」
「ストーップ!!」


「……どうしたんだい!?」
 男性は突然発狂した目の前の人物イコール俺にたじろいだ。
 いや……どうしたも何も……
「あー……いくつか聞きたいんですけど、いいですか?」
 男性はしばらくキツネにつままれていたが、やがて自然な笑顔を浮かべて、
「構わないよ。なんだい?」
 少々しょぼくれた笑顔に、俺はひとまず安心する。この笑顔が演技なら人間の笑顔の価値も安くなったってもんだ。
 だが、ひとまずこれを聞かないとスッキリしない。
「えっと、まず、俺は生きていますか?」
 男性の先程までの笑顔が僅かにひきつっている。これは男性にとっても意外な質問だったらしい。……痛い子みたいに見られたか?
 だが、以外にもそのひきつった笑顔は、新たな飴玉を口に運んでいた無表情に向けられた。
 「時雨、おま……」
 「ごめんなさい」
 男性の質問が折り返し地点に来る前に雫が反射的に謝罪する。てかなんなんだ。俺の今置かれている状況は。
 男性は苦笑いをして、こちらに向き直った。雫は視線を3度だけ下げている。
 「済まなかったね。時雨がちゃんと説明していなかったのでは、死んでしまったと勘違いしても仕方がない。完全にこちらに否がある」
 何が何だかさっぱりだが、今の話から察するに俺は死んではいない事だけは理解できる。よかった。これから自殺志願者を励ます会でもやるかな。ここから出れたらの話だが。
「ここはどこです?」
 人間の欲求というのは、満たされたらさらに上級の欲求を求めるものさ。
 しかし、男性は首を横にふり、雫の方をに目をやる。なんかちょっとにやけてないか?
「ん~、それは私の口からは言えないな。メンバー集めの類は時雨の仕事だからね」
 雫は顔を3度下そのままに、水晶のように輝く瞳を男性に向け、にらめっこをする雫という、何ともオークションをすれば価格がウナギ登りしそうな場面が見れるかとちょっとわくわくしていた俺なのだが、男性の攻める隙のない笑顔には勝てないと悟ったのか、視線をそらして、入ってきたのとは反対側の扉にへと進んだ。
「……こっちの部屋に」
 また移動か。次も床はあるんだろうな。







 さて、感想から言わせてもらう。

 信じられん。一応俺はもう高校生だぞ? そんなオコチャマが考えたものにさっきの男性の髭みたいな毛が生えたようなくらいの話、ひょひょいと信じられるわけがない。何度でも言ってやる。信じられん。信じられん。信じられん。信じられん。信じられん。信じられん。信じられん…………
 だがしかし、今日見たことはどうなる? 俺に多少の妄想癖があるかどうかは置いといたとして、俺は現実になかったモノをあったと信じ込んでしまうほど、まだまだ精神に異常はきたしていないつもりでいる。いや、まあ精神が崩壊してたらそのことにすら気づけないのかどうかはわからないが。俺、疲れてるのかな? 
 だが、人が賑わう商店街の路を歩く俺の隣には、俺をヘンチクなとこに放り込み、頼まれてもいないのにこの世界の裏バナを聞かせてくれた、無口に飴玉を舐める少女がいる。おかしいのは誰だ? こいつか? 俺か? それとも俺の知っている常識とやらか? それともやはりドッキリなのか……?
 仕方がない。もう一度整理をしよう。
 ああ、こっからの話はちと長くなるぞ。俺と雫の、会話兼説明シーンみたいなモンだからな。
 なるべく一回で済まさせてくれ。正直、あの話をもう一度思い出す元気はない。

 ……じゃ、一丁いくか。








 次に雫に入れられた部屋は、黒ずんだ四角い木製机が1脚と、そのセット品であろう椅子が2脚向かい合わせにあるだけで、あとは薄暗い夕陽のような水銀灯があるだけの簡素な部屋だった。話を聞くぐらいなら十分だろう。そこら辺に、なんか赤い斑点とかが無数についてるとか、机に切りつけた後があることなど、絶対に気にしないぞ。するものか。

 雫は飴玉を口に含みながら、左側の椅子に腰掛ける。
 俺も対面に浅く腰掛け、雫が口を開くのを待った。

 意外とすぐに、雫は話しだす。
「まず、ここは西高の地下300mに位置する」
 なるほど。どうりで窓もなく、圧迫感が漂うわけだ。
「私達の組織は、世界平和組織及び対白邪(はくじゃ)防衛軍2nd、通称HP2(ヒットポイント2)」
 ……ふーん、それで?
「私達の組織は20世紀初頭に作られた。その頃あった世界恐慌によって、荒れた世界経済を回復に向かわせるために、作られたのが発端。元々は世界平和防衛組織。未だに発足の発端となった人物の特定はできていない。ここの資金や地下組織の形成の経緯も不明。文字通り、謎の組織」
 自分で言うな。
「5年前までは、資金と人員の活動により、世界平和を維持してきた。小さな紛争等はあったものの、1950年に組織が安定して以来、世界大戦は二度と起こらなかった。正確に言えば、起こさせなかった。それだけの力が5年前までは組織にあった」
 5年前までは?
「5年前、白邪と名乗る組織が私達組織の中国支部を襲撃した。彼らは私達の組織を相手にして、破壊を繰り返す非常に危険な集団。しかし、その真意は未だ不明。よって私達組織はそれ以来、名称を世界平和組織及び対白邪防衛軍2ndと改名。以来、平和を守るために日夜戦っている」

「…………」

 ……俺はその辺に、「ドッキリ」と書かれた看板がないか探した。と、いうよりあってほしかった。
 突然明かされた謎の組織だと? 笑わせる。いまさらそんな、ゲームのような話を聞いて喜ぶようなやつは、子供、もしくは相手のノリに合わせてくれる優しい人ぐらいだぜ? まあ、俺も少しのってやることにしようかね。
「で、何故その謎の組織とやらに俺が呼び出されたんだ?」
 ……ドッキリ。なんつって雫がペロッと舌を出すのを心ひそかに所望していたのだが。
「今、HP2は度重なる白邪の襲撃によりメンバーを減らし、迅速な増員を余儀なくされている。HP2は、頭脳明晰で、身体能力も高く、人当たりの良い人物を探していた。そんな時、とある人物がリストアップされる。私と共に、4月3日に西高へとやってきた、全ての条件にあてはまった人物、ハル」
 ……そりゃありがたいこった。つまり俺は、選び抜かれた勇者ってわけだ。いまさらべたべたなパターンを。これは80年代ゲームの特権だろう。
「ただ、ここのメンバーとして動く以上、命を狙われる危険性がある。強制はしない。選んで。ここに所属するか、普通の高校生ライフを送るか」
 雫は新しい飴玉を取り出し口に含む。話は終了したということか。
 俺は手を顎に当てて目をつむり、かの有名な銅像のように考えるような仕草をした。


 もちろん、振りだがね。

 80点。なかなかの悪戯だ。

 きっと最初の暗闇落下も、何かトリックがあるのだろう。雫なら、それぐらい思いつきそうだ。発案者は風夏か? 望か? 高校入学を祝う、ちょっとしたサプライズってやつだろうか。サプライズにしては、ちょっと手が込み過ぎのような気もするが。ん? どんなトリックがあればここまでできるかって? 俺もたまには現実逃避ぐらいしたいさ。
 まあ、流れ的にここは返事しとかないと駄目なようだ。さて、どっちにするか。

 ふと、前を見ると雫は少しうつむいてこちらを見ている。一般的に言う、上目使いというやつをやってるつもりらしい。
 ……拒否させる気ないだろ。そんな顔されてお願いされたら、断れないっていう寸法か。
 俺は両手を軽く上げ、やれやれといった感じに首を振る。
 「……わかったよ。入ってやるよ」
 もう乗り掛かった船だ。最後まで付き合ってやろうじゃないか。そろそろオチだろうしな。
 そういうと雫は、明らかに不服そうな顔をした。嬉しくないのか?
 雫はちょうど飴玉を舐め終わり、さらにうつむき俺を見てこう言った。

「信じてない」
 わかってるじゃないか。
「そりゃそんな話、いきなり信じろっていう方が無茶だからな。俺は常識の持ち主なんでね」
 正論だろう。ここで、はい、そうですかと、納得できるはずかない。信じる方は中央病院を薦める。あそこには知り合いの優秀な精神科医がいてだな……
 すると、雫は大玉(飴玉の巨大ver.)を、口に二ついれ、一個ずつ頬の内側に入れて膨らませた。いわゆる、膨れっ面っぽくなったが……
「……おまえ、そんなキャラだったか?」
 雫はほんの少しだけ眉をつりあげた。
「あなたも」
「へっ?」
 俺の間抜けに開いた口に、雫の手が伸びてくる。
「んっ!?むぐっ……」
 口の中に透き通るようなハッカの味が広がる。何となく舌触りが悪い。
「……嫌いだから」
 そういうと、雫はあさっての方角を向いてしまった。
 ハッカが駄目だなんてな。
 放置していたせいなのか、ツルツル感を失ったハッカ飴を舐めながら、雫の小さな姿を見つめていた。
 俺はその時初めて、雫の人間っぽさを見たのかもしれないね。

次回.三章:夜道

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あめと神 三章:夜道

 んで現在、雫と並んで雪の残る薄暗い夜道を歩いている。

 理由は先程の刑事っぽい男性が、
『この組織については、分かってくれたようだね。本来ならこれからの事についても話しておきたいのだが、もう今日は遅い。そうだな……三日後、またここに来てもらおう。明日から二日間は、担当である私が出張してしまうのでね。今日は時雨と共に帰ってくれないか。夜道を一人で歩かせる訳にはいかないからね』
 ……との事である。
 まあ言われなくともそのつもりだがね。男としての常識だろう。

 ん? 地下からどうやって戻って来たかって?

 溜める必要もないありきたりなものなので、さっさと言ってしまおう。
 エレベーターである。
 出口となっていたのは、最初の生徒会室。そこに繋がっているのなら、何故入る時はエレベーターを使えないのだろうね。一日のツッコミどころが多すぎる。
 もう一度入ってみても、なにもない。
「雫、ほかの人が来たらどうするんだ」
 俺は生徒会室前で雫に聞いてみた。
 雫は、さっき食べていた大玉よりも、一回り大きな飴玉を舐めながら、何やら四角いカードのようなものを取り出した。
「生徒会室に入る前にこのパスカードを扉の前にかざせなければ、ただの生徒会室」

 え~っとだな、いったいいつオチがくるのでしょうか?

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